この記事について
この記事は、プロジェクトの「地獄化」に直面したときの対処法について説明します。「安請け合い」「クレーム」「膨大な作業」など、現代プロジェクトは非常にキツい状況に巻き込まれることがしばしばあります。そんなとき、どこにどうアプローチすれば、構想を立て直せるのかを解説します。また、その思考法のヒントとして、将棋用語や将棋棋士のプレイスタイルについても紹介します。
もくじ
1 着目する問題:ビジネスプロジェクトの「地獄化」
2 「地獄化」の根本原因はどこにある?
3 脱出するためのアプローチは4通り
4 プロジェクト構想を立て直すヒントは、将棋棋士のプレイスタイルにあり!?
5 参考資料と、よもやま相談会のご案内
着目する問題:
ビジネスプロジェクトの「地獄化」
プロジェクトの「地獄化」を、経験したことはありますか。私はあります。
プロジェクトの地獄化には、いくつかのパターンがあります。ぱっと思いつくものだと、こんな感じでしょうか。
不具合・クレーム・修正の無限ループ
納品物に、不具合や欠陥が発生し、それがもとで、顧客からのクレームが発生。通常は、きちんと対応して納め直せばよいだけの話なのだが、技術者や製造側の人が足りない。あるいは、不具合が再現せず、何をどう直したらいいか、わからない。結果として顧客の不満は時間経過に従って膨張、やっとこさ対応したと思ったら、また別の不具合が発生・・・いつまで経っても収まらない!
「ちょっとした言葉のアヤ」のつもりが、想定外のおおごとに
きっかけは、営業部門の担当者や、自社の偉い人の発言。「そんなの簡単ですよ」「うちならできます」という安請け合いから案件が始まるも、蓋を開けたら、解決困難な課題。「フルーツバスケット」よろしく、安全圏の椅子を取り合い、押し合いへし合いしている間にも無情にも時間は経過する。いよいよ誤魔化しきれなくなったときに、ボールを持っていたが最後、果てしなく不可能な作業から逃げられなくなる・・・(発言した御大は、どこ吹く風で次の種をせっせと蒔いていく・・)
果てしなく長く直列する伝言ゲームが複雑すぎて、もはや誰にも解けない
例えばその仕事が、「目の前の客に、バーテンダーがカクテルを作る」といったことなら、話は早い。しかし、いまどきのビジネスプロジェクトは、伝言ゲームが長い。エンドクライアント→情報システム子会社→総合代理店→専門サービス子会社→一次請け制作ベンダ→二次請けベンダ・・・と、法人同士が直列関係で連なるだけでなく、マルチベンダで並列関係になることもしばしば。その内部組織が、これまたそれぞれ、顧客対応窓口→プロジェクトリーダー→担当者という形で、数珠つなぎで構成されていく。
もはや、誰の要望がどこで発生したのかも、よくわからない。それでもデザイナーや設計者は、「総予算●億円」の期待に応えるプロダクトを、設計しなければならない。
あんまり続けると、気持ちが暗くなってしまいそうなので、このあたりで止めておきましょう。
「地獄化」の根本原因はどこにある?
地獄化したプロジェクトは、まさに生き地獄。本当に、辛いものです。
では、なぜ、プロジェクトの地獄化は起きるのでしょうか?
結論から言えば、地獄化するプロジェクトの根本原因は「構想がダメだから」ということに、尽きるのです。
そもそもプロジェクトとは、
・ある目的Pのために
・関係者Sとともに
・資源Rをかき集め
・手段Mを活かすことにより
・目標Tを達成し
・果実Fを分け合う
という構文で構想されるわけですが、このP、S、R、M、T、Fの間に適切な関係性があれば、どんなに規模が大きい取り組みでも、そこまで大きく荒れるということはありません。
しかし、いまどきは経済・経営環境の変化も激しく、技術も新しいものが次々と発生しているため、この「P、S、R、M、T、F」を適切に設定すること自体が、そもそも極めて困難です。
未知なるプロジェクト活動は、膨大なる「にわとり・たまご問題」の絡まり合い
ゆえに、最初はどうしても、この構想「P、S、R、M、T、F」は、経営意思決定者が「えいやっ」と決めるしかないのですが、その筋がよろしくないことが非常に多い。筋がよろしくないことは大きな問題ではなく、適宜柔軟に軌道修正していけばよいのですが、実は、この軌道修正が、難しいのが、最大の、悩みのタネなのです。
長期的に考えた場合の理想の行動は
・構想「P、S、R、M、T、F」が、おかしいなと思ったら、その都度、しっかり話し合う
ということなのですが、短期的な現実解として
・発注側:丸投げできる業者の営業に、難しいところは振って済ませる
・受注側:忙しいし、スケジュールもあるし、とりあえず問題をあいまいにして契約を進める
・社内コミュニケーション:お金の論理、組織の論理で、無理やりやらせる
という行動が選ばれがちです。
短期的に楽な道を選ぶと、そこがまさしく、地獄化プロジェクトの三丁目・・・というわけです。
脱出するためのアプローチは4通り
基本的に、どんなプロジェクトも、構想がダメなうちは、絶対に、うまくいきません。
ダメな構想に巻き込まれたら、対応方法は大きく4つあります。
甲
「自分も業火に焼かれながら、構想の立て直しに奔走し、あるべき姿を模索し、戦う」
乙
「話の筋合いを見極めて、自分がもらう報酬の分だけ仕事をして、それ以外のことは割り切る」
丙
「適切な処置を講じて、撤退する」
丁
「なんでもいいから、とにかく逃げる」
もっとも達成感があり、自己成長にも繋がり、知見やノウハウ、信用力を獲得できる道は、「甲」です。
ただし、大変です。自分の能力や投下資源が不足しているのに、過大な状況に挑んでしまうと、健康を害する可能性も、なくはありません。
ゆえに、生きていくための実践的な知恵として「乙」「丙」の選択肢も、あることは認識していて損はありません。
「丁」はさすがに最後の最後、という手段ですが、たった一度の人生、なんだかんだいって、命あってのものだねです。ですから、状況によっては、最善手となり得ます。ただ、プロフェッショナルは「乙」か「丙」の道を選びます。選べるように、常に注意を配るようにします。
プロジェクト構想を立て直すヒントは、将棋棋士のプレイスタイルにあり!?
最後に、ちょっと唐突感があるかもしれませんが、こうしたプロジェクトの生き残り術を考えるうえで、特に上記の「甲」の道を行くために、将棋用語が参考になるので、ご紹介です。
たとえば、将棋には「序盤」「中盤」「終盤」という言葉がありますが、プロジェクトワークでいえば「座組み作り」「実行開始」「最後の追い込み」といった概念に対応します。そして、各フェーズにおける「将棋のキーフレーズ」は、「プロジェクトの状況認識」に、非常に符号するのです。
さらに参考にしたいのが、往年の名棋士のプレイスタイル、異名です。
プロジェクトワークを考えるうえで、ぜひとも知っていただきたいのが「光速流」と「泥沼流」の二つですが、それ以外にも「自然流」「鉄板流」など、味わい深いプレイスタイルの言葉があります。
ポイントは、将棋の歴史に残るような目覚ましい成果を挙げた棋士は、自分のプレイスタイルを築き上げた、ということです。将棋の勝ち方がひと通りではないように、プロジェクトワークへの向き合い方も、実は、多様である。自分なりの道を探し、選べばよい。
プロジェクトの「地獄」に迷い込んだ人は、ぜひ、そのことを、意識してみていただけると幸いです。
参考資料と、PM育成よもやま相談会のご案内
ゴトーラボでは、企業の組織的プロジェクト進行能力を高めるための「ディスカッション・ペーパー」を一般公開しています。ぜひ、ご参考ください。
「プロジェクト進行スキルを組織的に底上げする方法を検討するためのディスカッション・ペーパー」https://docs.google.com/presentation/d/1GoFA2VqhkRNuFl0eKlcW0Hh4iFKOrZ3_0d3ggAsvHTM/edit?usp=sharing
(googleスライドです)
また、社員のPMスキル向上を、本気で考えたい!という方への、よもやま相談会を定期的に実施しています。
毎週火曜と木曜、早朝の8時~9時、zoomで実施しています。
https://calendar.app.google/7qyLRxCedgsQyEa59
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「自社の育成体系について、セカンド・オピニオン的に意見が聞きたい」
「一般的に、他社や他の業界で、PMスキルについて、どのようなことが課題になっているのかを知りたい」
「とりあえず悩みを聞いてほしい」
などなど、お気軽に、ご予約ください。
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実は、プロジェクトの立て直しを難しくする最大の問題は、この構想「P、S、R、M、T、F」の修正について話し合う当事者「S」が、構想のうちに含まれてしまっている、ということです。ここでは「自分たちを取り巻くものについて、内部的な当事者がメタ的に話し合う」という、実は極めて厄介なことが起きています。
実は、筆者らが提唱しているプ譜の最大の効用は、この「メタな視点でプロジェクトを客観的に記述する」というところにあります。よろしければ、以下の記事も、ぜひ、ご覧ください。