この記事について
このページは、いわゆる「ノーコード、ローコード」で、カスタマイズが自由にできる、業務用のITサービスを提供しているベンダにお勤めで、カスタマーサクセスや導入コンサルティングを担当されている方向けのコラムです。
業務用のITサービスを導入するために必要なスキルや、導入プロジェクトの中流、下流工程で、思わぬ障害や問題に直面しないためのコツ、「プレ・キックオフ・コミュニケーション」をご紹介します。
もくじ
1 ITサービスの導入による業務変革は、思ったよりも難しい!?
2 導入プロジェクトの、地獄と極楽の分かれ道
3 業務用ITサービスの導入に必要な、3つのスキル
4 ステップアップへのワンポイントアドバイス
ITサービスの導入による業務変革は、思ったよりも難しい!?
たとえば、googleで「カスタマーサクセス」と検索すると、なかなか辛いサジェスト・キーワードが表示されます。
※2025年2月時点
カスタマーサクセスというと、キラキラした流行の職種、というイメージもありますが、仕事の手順を間違えたり、やるべき業務の視野視界を狭く認識してしまったせいで、思わぬ障害や落とし穴に直面してしまう人が、とても多いのです。
具体的にいうと、こんな状況でお悩みだ、という方が多いのではないでしょうか。
週一でクライアントとの定例会議を開催して、導入にむけてのヒアリングやディスカッションをしているが、話があっちこっちに拡散してしまい、議論が収束せず、スケジュール通りに進められない
自社サービスの導入が、特に問題なく進んでいたはずなのに、急に関連するシステムや他社ベンダの問題に巻き込まれてしまい、なぜかよくわからないが前に進まなくなる
決裁者との商談の段階では、サービスのコンセプトやメリット、機能など話をすると、すごくウケが良かったのに、いざ現場担当者と話すと「足りないもの」「欲しいもの」が続出して、導入の雲行きが怪しくなる
システム設定や導入を進めるために必要な情報を手配してもらうため、お願いをしているが、顧客の担当窓口の方になかなか動いてもらえず、スケジュール遅延の要因になってしまう
導入プロジェクトの、地獄と極楽の分かれ道
SaaSは、それ単体で導入するのは簡単ですが、コーポレートサイトや、他のITシステムと連携する、APIで繋いで業務を変革していく、といった場合、軽く考えていたら、思わぬ阻害要因にさらされます。
手順良く問題をさばいていかないと、本来なら簡単に進む話も、全然進まなくなってしまいますので、要注意です。
そのことを理解するためには、導入を阻害する要因、いつかどこかで爆発する時限爆弾が、どこで生まれるかを理解しなければなりません。
導入を阻害する時限爆弾は、「商談」で作られる
業務用SaaSのセールストークは、極端にいえば必ず、以下の構造になっています。
<顧客への問題提起>
●●や●●の業務に、余計な手間や負担、コストがかかっていませんか?
<顧客への提案>
当社のサービスなら、業務改善とコストダウンができます!
なぜなら、●●や●●、●●の機能があるからです!
こうしたトークで、顧客決裁者の気持ちを惹きつけ、導入のメリットを理解していただくこと自体には、問題はありません。
しかし問題は、そのあとです。
通常、決裁者からのOKサインを得たら、最終的な提案書や見積り、スケジュール概要などをお示しし、契約手続きを経たたうえで「キックオフ・ミーティング」を開催し、いよいよプロジェクトが開始される、という流れでことは進みます。
まさにその、キックオフ前のコミュニケーションがまずいと、受注の喜びもつかの間、地獄へ真っ逆さまです。
キックオフの一歩手前、いわば「プレ・キックオフ・コミュニケーション」こそが、成否を握るのです。
本格的な導入へのキックオフの前の、プレ・キックオフ・コミュニケーションが大事
実行すべき「プレ・キックオフ・コミュニケーション」とはどういうものか。
やってしまいがちな、ダメなコミュニケーションとの対比でお示しします。
地獄への道 (通常、やりがち) | 極楽への道 (本当はやるべき) |
---|---|
会社のヒアリングシートを使って とりあえず実務上必要な情報を取得する それでなんの問題もないと素直に信じる | ヒアリングシートはもちろん大切にするが どんな業務があり、何に困っているかを 念の為、一歩深く、具体的に聞く |
自社のサービス導入に直接関係する 情報だけを集める | 自社のサービスとの関わりが 間接的な領域についても 念の為、できるだけ幅広く聞く |
対象となる業務や事業組織の問題だけ、 解決すればよいと考え、 最低限の意思疎通で済ませる | クライアントの事業全体に 貢献するつもりで、 念の為、できるだけ視座を高くして聞く |
導入プロジェクトがスタートしたあとに直面する数々の「手戻り」は、実は、序盤のコミュニケーションが不足していることにより、発生しています。
顕在化している問題だけでなく、潜在的な問題にいち早く気づき、対処できるかどうかで、プロジェクトがうまくいくかどうかが、まったく違ったものになります。
業務用ITサービスの導入に必要な、3つのスキル
以上のような問題を、乗り越えていくために必要なスキルは、ずばり、3つです。
①現状理解と課題把握のための聞き取り、分析
②あるべき情報システムと業務像の構想、提案
③具現化、実装するための要件定義と進行管理
このなかで、①を身につけるためには、先述した「プレ・キックオフ・コミュニケーション」を、どの案件でも丁寧にやることが早道です。
コツは、「難しい仕事」「給料のために、我慢してやる、やらされ仕事」と思わないことです。お客さんが、一体どんな仕事をしているのか、何に困っているのか、ということに、まず、興味を持ってみる、というところから、始めてみるのを、お勧めします。
そのうえで、②と③については具体的には以下のような情報を整理することが、スキルアップへの道となります。
●業務に関連するソフトウェアやITサービスを洗い出し、関係性を図示する
●それらの運用や改善に関わる社内外の関係者を、その図に書き込む
●業務と情報システムの全体像を把握したうえで、直面している解決したい課題をリストアップする
●新たに導入するITサービスが、どのように貢献できるかを、定量的かつ定性的に言語化する
●開発や連携に必要な意思決定者を特定し、キックオフミーティングにお招きする
考えてみれば、このあたりの話は、筋論から考えれば、営業担当者と先方決裁者のあいだの、商談のなかでしっかりされているはずなのですけれども。
「べき論」としては確かにそうなのですが、実際は、商談のなかで根掘り葉掘りと要件を詰めるということは、思ったよりも、かなり少ないのです。
ステップアップへのワンポイントアドバイス
商談の際に描いたキラキラした夢を、矛盾や葛藤のなかで現実に着地させるのが、カスタマーサクセスの仕事です。それは簡単な話ではありません。そして、会社が必要なスキルを身につけるように、指導してくれることは、残念ながら、とても少ないのが現状です。
しかし、カスタマーサクセスや導入コンサルティングの仕事で、正しく成果が出せるようになると、ITコンサルタントやプロジェクトマネジメントの上流工程を対応できるような、ハイレベルなスキルを身につけることができます。
ハイレベルなスキルを身につければ、高収入な仕事や自己成長につながる機会に恵まれます。
ステップアップのために、まずやってみていただきたいのは、ただひとつだけ。「プレ・キックオフ・コミュニケーション」です。
ぜひ、一度、お試しください。
参考資料と、PM育成よもやま相談会のご案内
ゴトーラボでは、この問題に関する分析結果と解決方法をお示しし、社内の育成計画の参考とするための
「ディスカッション・ペーパー」を一般公開しています。ぜひ、ご参考ください。
「プロジェクト進行スキルを組織的に底上げする方法を検討するためのディスカッション・ペーパー」
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この記事の著者
プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。