この記事について
この記事は、PL/PM/PjM/PdM/PMOの違いを解説します。主にポジションとしてどう違うのか、また行為としてのPMにはどのような知識、スキル、所作が求められるのかについて、説明します。
もくじ
1 着目する問題:PL/PM/PjM/PdM/PMOの違い
2 ポジションとしてのPM概念の違い
3 行為としてのPMに必要な内的資源
4 PM概念別の、内的資源の優先順位
5 参考資料と、よもやま相談会のご案内
着目する問題:
PL/PM/PjM/PdM/PMOの違い
プロジェクトマネジメントという職能の重要性が社会一般にも広く認知されるようになりました。
言うまでもなく、それはとても良いことなのですが、しかし、プロジェクトマネジメントというものは、わかりそうでわからない、かなり曖昧な概念です。
そもそもPMとは、「プロジェクトの責任者」という、ポジションや役割の名称なのか。
それとも、「プロジェクトを推進、管理する」という、業務、機能や行為のことなのか。
その点があいまいであるゆえに、PM、PjM、PdM、PdM、PL、PMOと、気づけば概念が細分化し、実によくわからない状況が起きています。職業的なプロフェッショナルも、意外とこの点について、あまり深く内省するということはありません。
ポジションとしてのPM概念の違い
一般的な事業開発におけるプロジェクト組織では、PMのポジション・役割は、以下の表に示すようなものです。
ただこれは、あくまでも中心的なイメージにすぎません。
文脈によって意味合いが変わりますので、以下の表で、各概念の違いについて、説明します。
名称 | 違い |
---|---|
PLとPMの違い (一般的な事業組織) | 一般的な事業組織におけるPMは、管理、調整役の意味合いが強いです。 ・PL:未知に一歩を踏み出し、開発、改善や変革を担うリーダー(上図のPOが近い) ・PM:リーダーを補佐するサポート、軍師役 |
PMとPLの違い (SI開発) | SI開発の文脈では、以下の理解が一般的です。 ・PM:開発の総責任者 ・PL:モジュールや小区分ごとのパートリーダー |
PjMとPdMの違い (主にSaaSやアプリ) | SaaSというビジネスモデルの登場により、PdMという概念が発生しました。 ・PdM:その製品(事業)の運営、拡張開発全体に対する総責任者 ・PjM:個々の開発案件のパートリーダー |
PMとPMOの違い | 大規模開発では、一人ではPMしきれないため、PMOという概念が発生しました。 ・PM:開発の最高責任者 ・PMO:PMの補佐役たち |
補足しますと、大企業の非定型的業務が発生した場合に、役員~部長層に評価社、承認者としてのPOが立ち、課長~係長層に現場責任者としてのPLが立つ、という形を取ることがあります。一概に良し悪しを論じるのは難しいですが、このような形でプロジェクト組織が縦方向に多重化すると、PLとPMの守備範囲があいまいになり、単なる中間管理職的な様相を呈していきますので、注意が必要です。
行為としてのPMに必要な内的資源
さて、ポジションとしてのPMには、先述の通り、業態や文脈によって多様性がありますが、行為としてのPM二必要な内的資源(知識、スキル、経験、所作)は、意外と共通している部分が多いものです。
①エンジニアリングに関するドメイン知識
これは実は、考えてみたらごく当たり前の話なのですが、行為としてのPMとは、専門知識を持った技術者を始めとする各利害関係者に、行動を促し、差配する、ということです。必ずしも、PMが技術者の代わりに技術を扱う必要はありませんが、知識や知見がないよりあったほうがいいのは、言うまでもありません。場合によっては、信用を得られず、PMとしての職責が果たせないこともあります。
ただし、一分野に対して狭く、ではなく、広く知っていること。そして、原理と仕組みの基本を理解していることが重要です。
以下は、IT開発のPMに必要な知識、知見の例です。
・コンパイル、アッセンブル等のソフトウェア開発における基本概念
・データ形式や構造、データフロー、アルゴリズム・プログラミング等
・オブジェクト指向/MVCモデル等のクラシックな開発方法論
・マイクロサービスアーキテクチャ 非同期処理等のモダンな開発方法論
・C/C#/C++ JAVA PHP等の、クラシックな開発言語
・ruby/python/GO/swift 等の、モダンな開発言語
・React/Vue/Angular ReactNative等のライブラリや開発フレームワーク
・サーバー・インフラ・ネットワークに関する技術的知識(オンプレミス/クラウド)
・機械学習、深層学習、LLM等のディープテックに関する理論と用途開発
・並列処理に等に関するディープテックに関する理論と用途開発
・セキュリティ
・コンセプトデザイン、UXデザイン
・アートディレクション、意匠デザイン
・データ分析、データ可視化
・業務分析や工程分析、管理、改善
こうした技術的ドメイン知識は、当然ながら、機械なら機械、自動車なら自動車、建設なら建設、バイオならバイオと、分野によって異なります。
ちなみに、技術者であればPMができるかというと、そうでもありません。技術者とは、具体的にその設計課題に、答えを出す存在であり、PMは、そのプロセスを支援する、という関係性があります。ゆえに、PM特有の知識・スキルもまた求められます。
②狭義のプロジェクトマネジメントに関する知識
狭義のプロジェクトマネジメント知識は、ドメイン知識と双璧をなすものと言えます。
・当該顧客や商流における、仕様管理や機能設計に関する文化、ルール
・担当する製品の全体像と、そのモジュールや内部構造に関する知識
・担当するモジュールの機能、内部構造、更新履歴、要注意点等への理解
・関連するモジュールとの関係性、影響範囲に関する洞察
・企画構想の意図を理解し、先々に関係する標準的な部署、人物を想定する
・仕様書や設計書を理解し、先々に発生する標準的な工程、作業を想定する
・標準的な開発手順とスケジュールを元に、目の前の案件にマイルストンを置く
・問題発生時のリカバリ策立案やトラブルシューティング
・スケジュールや工数・タスク管理
・バージョン管理やドキュメント管理
・見積もり、計画、実績管理
・製造業で求められる一般的な知識のうち、品質管理に関するもの
・同 リスク管理
・同 コスト管理
・PMBOK系の、いわゆるPjMに関する知識体系における用語
・アジャイル、Scrum系の、いわゆるPdMに関する知識体系における用語
③利害関係・社内手続き、コミュニケーション
ある程度、②に含まれますが、特筆して重要なのは、コミュニケーションに関する知識やスキルです。
・関連する法人や部署間の関係性やパワーバランス、キーパーソン把握
・社外ステークホルダーと上層部・ビジネス側と、開発側の関係性への理解
・各業務を進めるための正式な申請、稟議、決裁プロセス
・エグゼクティブとの交流、交渉におけるマナーや語彙
・テック、ギーク的な文脈での交流、交渉におけるマナーや語彙
・各宗教や文明圏における価値観、禁忌への理解
・社内の公式な会議、文書を扱うためのリテラシ、語彙力
・メールやSlack等の読み書き、レスポンス速度
・オフの場で他者と打ち解け、フランクに付き合える開放性
④ビジネススキル/マネジメント系知識
これもある程度、②に重なりますが、いわゆるMBAビジネス知識、スキルも、基本的なものは必要とされます。
・文書作成
・ロジカルシンキング
・プレゼンテーション
・問題解決
・交渉
・会計、ファイナンス
・経理、財務
・法務、契約
・マーケティング
・組織マネジメント
⑤所作
以上に挙げた、言語化可能なハードスキルに加えて、無意識的な、所作、としか言いようのないものもあります。この所作こそが、PMとしての力の本質だったりもします。
所作には、日常習慣的なものと、問題発生時のような、非日常的なものがあります。
(日常)
・時間を守る、納期を守る、約束を守る
・嘘をつかない つかなくてよい状況を作る
・細かな数値計算を厳密にし、誤差を小さくする
・ディティールよりも戦略や方向性を大事にする
・少ない情報からより多くを洞察する
・自己主張を抑制し、相手の内心や思いを聞く
・伝聞情報に頼らずに一次情報に当たって事実誤認を抑制する
・コミュニケーションコストを削減するドキュメンテーション
・問い合わせやリクエストに対する応答の迅速性、正確性
・過度にコントロールしようとせず、相手や状況に任せる
(非日常)
・筋を通すために、ときには横車も押す
・柔軟に発想し、変化球を投げる
・複雑な問題でも、答えをとにかく形で出す、示す
・一歩下がって広く見て考える 広く多くの人にメッセージを訴えかける
・他者の思想に働きかけ、制御する
⑥基礎教養、リベラルアーツ
最後の最後、底力になるのが、リベラルアーツです。こうした人類や森羅万象への関心を持つことは、業務に直接関係しないように見えて、実は、PMという行為を支える土台となります。
・哲学、美学
・歴史、国際関係
・マクロ経済、金融
・政治、軍事、戦争
・文化、民俗学、社会学、人類学
・映画、文学、音楽、絵画
・近大数学、物理学、化学
・現代数学、物理学、化学
・工学、解析学、システム工学、人工物工学
・認知科学、行動経済学、進化生物学
・建築、都市開発、地域社会
・遊戯 ゲーム
PM概念別の、内的資源の優先順位
上記の内的資源は、PM概念によって、必要とされる領域が微妙に異なります。
代表的なロール別の色分けを、以下の表で示します。
領域 | 事業開発 におけるPL | SI開発 におけるPM | PMO | PdM |
---|---|---|---|---|
①技術的ドメイン知識 | ★ | ★★★ | ★ | ★ |
②狭義のPM知識 | ★ | ★★★ | ★★ | ★★★ |
③コミュニケーション | ★★★ | ★★ | ★★ | ★ |
④ビジネススキル | ★★ | ★ | ★★★ | ★★★ |
⑤所作 | ★★ | ★★ | ★★★ | ★★ |
⑥リベラルアーツ | ★★★ | ★ | ★ | ★★ |
いかがだったでしょうか、具体的に考えていくと混乱しやすいPM概念について、参考になれば幸いです。
PMには、ポジションとしての側面と、行為としての側面がある。
ポジションとしてのPMは、文脈によって意味が変わる。
行為としてのPMを支える内的資源は、ある程度共通している。
と、このように、考えてください。
参考資料と、PM育成よもやま相談会のご案内
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