この記事について
この記事は、「会社のなかでPM、PL人材の層が薄い」問題について考えます。多くの企業で見られる頻出のお悩みパターンを踏まえたうえで、層の厚い企業との違い、問題を解決するためのアプローチについて解説します。
もくじ
1 着目する問題:PM、PL人材の層が薄いとお悩みではありませんか
2 PM、PL人材の層が厚い企業は、ここが違う!
3 悪循環から抜け出すため、目の付け所
4 まとめ
PM、PL人材の層が薄いとお悩みではありませんか
「PM、PL人材の層が薄い」
「中堅メンバーたちのPMスキルを、どうすれば強化できるだろうか」
というお悩みを、よく聞きます。
筆者がクライアントワーク制作プロジェクトや事業開発支援に、数多く携わってきた経験から、その悩みは大きく3つの分野にわかれることが多いように感じています。
すなわち
A 現行業務の「顧客満足」や「業務の生産性」に関する悩み
B 自社の「人」や「組織」に関する悩み
C 事業の「収益性」や「将来性」に関する悩み
です。
A 「顧客満足」や「業務の生産性」に関する悩み
・開発プロジェクトの遅延やトラブルが慢性的に多い
・顧客に対するコミュニケーションが御用聞き型で、感動を与えられていない
・既存顧客への追加提案やアップセル活動が弱い
B 「人」や「組織」に関する悩み
・顧客からのクレームが若年層の社員に直接打撃となっていて、メンタルヘルスにダメージが生じている
・特に問題が認識されていないのに、長年の中核リーダーが突然退職する、ということがよくある
・特定のメンバーへの依存度が高く、属人的になっていて、長期的な組織の安定性に危機感がある
C 「収益性」や「将来性」に関する悩み
・コンペになったとき、提案内容で訴求しきれず、価格勝負になりがち
・新規顧客が増えておらず、将来的に事業が先細ってしまう不安がある
・DXや新規事業系の、前例がなく、未知の要素が多い取り組みの進行が苦手
PM、PL人材の層が厚い企業は、ここが違う!
上記に挙げた悩みや不安は、プロジェクト要素のある業務を行っている企業において、極めて普遍的な現象です。
これらの諸問題に悩んでいない企業は、存在しないと言っても過言ではありません。
一方で、比較的良好な状況の企業も、もちろん、存在します。
PM、PL人材の層が厚い企業の特徴
・社内のムードが明るく、前向き
・人間関係が良好で、困ったときにヘルプサインを出しやすい
・会社自体に上昇志向が強く、新しいことにチャレンジする風土がある
良い状態を作ることができている要因
・財務体質の健全性が高く、利益率の低い案件を退けることができる
・一定程度の失敗を許容できるバッファがあり、チャレンジがしやすい
・会社を支える中核リーダーたちが、経営陣に対して一定程度の信頼を置いており、陰口が少ない
・顧客を儲けさせることで、自社の儲けも作られる、という考えが、社員の末端まで浸透している
ほんのわずかな違いで、明暗がくっきりわかれる
PM/PL人材の層の形成は、原因が結果を招き、結果が次の原因を招く、というフィードバックループ構造の上にあります。
ですので、ひとたび悪循環に陥ってしまうと、抜け出すのは、簡単ではありません。
悪循環から抜け出すため、目の付け所
ずばり、PM、PL人材の層が薄いという悩みから脱却するには「目の付け所」が肝心です。
目の付け所を誤った改善施策では、状況を悪化させるだけで、ひとつの利益もありません。
そして、目の付け所は、意外と簡単なところにあります。
すなわち
A「顧客満足・業務生産性」
B「人・組織」
C「収益性・将来性」
この3つの悩みのなかで、どの悩みが、もっともいま、痛みが強いか?を考えるのが、最大のコツです。
ケース①
A「顧客満足・業務生産性」の悩みが強く、BとCはさほどではない場合
この場合は、「PM、PL人材の層問題」のなかでは、最も軽症です。
人と組織と顧客に恵まれているのですから、まだまだ立ち直りのチャンスがあると言えます。
ただ、舵取りや立ち直りの方法を誤ってしまうと、かえって悪化させかねません。その点は、要注意です。
状況改善にあたって、避けるべきアプローチ
・デキる社員にトラブル解決の依存度を高める
・表層的な業務効率化を行い、かえって顧客満足を下げてしまう
望ましいアプローチ
・顧客の不満足やクレームを「成長機会」と捉える
・現場で矢面に立つメンバーが、ワンランク上の解決策を発想できるようなスキルアップ支援を行う
ケース②
Aに加えてB「人・組織」の悩みも強いが、Cはさほどではない場合
この場合は、「PM、PL人材の層問題」のなかでは、かなりの重症です。
この場合、「営業力は強いが、納品力が弱い」状態であることを示しており、長期的な安定性にはかなり強い不安があります。
ただ、もし、会社の経営方針として「顧客も従業員も、どんどん入れ替わっても仕方ない、そういうものだ」と考えるのであれば、「PM、PL人材の層問題」は解決不可能ですし、する必要もありません。
一方で、「このままではダメだ、活き活きとした良い会社にしたい」と考えるならば、根本的な対処から始めなければなりません。
状況改善にあたって、避けるべきアプローチ
・あんまり深く考えずに「プロマネ人材育成だ!」「PM研修だ!」と叫ぶ
・ミッション、ビジョン、バリューやパーパスを策定しなおすなど、組織開発的アプローチの大技でなんとかしようとする
望ましいアプローチ
・若年層の離職原因についての理解度を高める
・納品工程や顧客接点で何が起きているか、現場現物現人を通じて確認する
・会社としての標準的なPMプロセスを見直す
・可能であれば、あわせて商談工程との接続も改善する
ケース③
A、Bに加えて、C「収益性、将来性」の危機感も強い場合
この場合は、もはや瀕死、会社としては死に体だといえるでしょう。
ただ、ゆえにこそ、正しい時と場合を見極め、「起死回生の一手」を繰り出し、乾坤一擲の起死回生を図ることも、可能です。
状況改善にあたっての、唯一のアプローチ
・最も状況がまずい案件に、真っ当な外部の助っ人に入ってもらう
・そして、まずは案件単位で、徹底的な立て直しを手伝ってもらう
・その反省をもとに、まずは全社員が一緒になって、財務体質の改善を図る
・それらの過程を通して、会社のみんなで成長する
まとめ
「会社のなかでPM、PL人材の層が薄い」問題は、以下の3つの領域にわけることができます。
A 現行業務の「顧客満足」や「業務の生産性」に関する悩み
B 自社の「人」や「組織」に関する悩み
C 事業の「収益性」や「将来性」に関する悩み
状況を打開するためには、「これらの悩みのなかで、どこが一番つらいか」を考えることが必要です。
悩みのポイントを明確にすれば、問題のボトルネックが明らかになります。
対処方法やアプローチは、その点を明らかにすることで、自ずと見えてきます。
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この記事の著者
プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。