地獄化プロジェクトを脱出する

この記事について

着目する問題:
ビジネスプロジェクトの「地獄化」

プロジェクトの「地獄化」を、経験したことはありますか。私はあります。

振り返ると、プロジェクトの地獄化とは、理不尽としか言いようがなかいものだと、つくづく、思います。

3つほど、ケースをご紹介します。

ケース①
「口約束の独り歩き」が、想定外のおおごとに

ケース②
不具合・クレーム・修正の無限ループ

ケース③
伝言ゲームが果てしなく長く、複雑すぎる

「地獄化」の根本原因はどこにある?

地獄化したプロジェクトは、まさに生き地獄。本当に、辛いものです。

では、なぜ、プロジェクトの地獄化は起きるのでしょうか?

結論から言えば、地獄化するプロジェクトの根本原因は「構想がダメだから」ということに、尽きるのです。

そもそもプロジェクトとは、

という構文で構想されます。

この目的P、関係者S、資源R、手段M、目標T、果実Fの間に適切な関係性があれば、どんなに規模が大きい取り組みでも、そこまで大きく荒れるということはありません。

プロジェクト構想の黄金律

しかし、プロジェクト構想は、99.8%の確率で、崩れます。

いまどきは経済・経営環境の変化も激しく、技術も新しいものが次々と発生しているため、この「適切な構想を立てる」ということが、そもそも極めて困難なのです。

ゆえに、最初はどうしても、経営意思決定者が「えいやっ」と決めるしかないのですが、その筋がよろしくないことが非常に多い。

いや、初期構想の筋がよろしくないこと、それ自体は大きな問題ではありません。

どんなプロジェクトも、それが未知の要素が多い限り、最初は仮説的にしか、スタートすることはできません。始めてから、生起した現実を受け止め、踏まえ、適宜柔軟に軌道修正していけばよいのです。が、この軌道修正が難しいのが、最大の、悩みのタネなのです。

プロジェクト構想の「よくある崩れ」

プロジェクトの地獄化とは、

という状態から、抜け出せない、ということです。

では、プロジェクトの極楽化とは、どういうものかと言いますと

ということです。

極楽に住まうためには、長期的な視野に立った理想の行動

ということです。

地獄化へといざなってしまうのは、これができずに、短期的な現実解として

という行動を選んでしまったせいなのです。

これらは、短期的には楽な道ですが、その先に待ち受けるのがまさしく、地獄化プロジェクトの三丁目・・・というわけです。

脱出するためのアプローチは4通り

基本的に、どんなプロジェクトも、構想がダメなうちは、絶対に、うまくいきません。

ダメな構想に巻き込まれた場合に、個人として取ることの可能な対応方針は大きく4つあります。

もっとも達成感があり、自己成長にも繋がり、知見やノウハウ、信用力を獲得できる道は、「甲」です。

「甲」の道を生きる、ということは、問いを立てる、ということです。

項目具体化キーワード問いの例
目的P意義 テーマ
狙い 動機
それは、本当に、必要か
誰がどこで、どう困っているのか
一次情報を確認したか
関係者S受益者 協力者
出資者 諸侯
なぜ、欲しているのか
そこに、愛はあるか
誰のためか
資源R資金 時間
スキル 知識
前もって絶対に必要か
動きながら獲得できるか
得るためにはどうするか
目標T成果 成果物具体的にはどういうものか
コンセプトは?
本当にそれでよいか
手段M技術 考え方
フレームワーク
その手段を、熟知しているか
酸いも甘いも噛み分けたか
自家薬籠中になっているか
果実F機能 効果
利益 価値
自利、利他ともに大事にできるか
我利我利亡者になっていないか
逆効果やデメリットは考えたか

これらの問いを発するのは、端的にいって、かなり大変です。なぜならこれは、「そもそも論」であり、「異議申し立て」だからです。立場や関係性によっては、「生意気だ」「空気が読めない」と、煙たがられるかもしれません。

また、立てたから、必ず得するとも限りません。自分の能力や投下資源が不足しているのに、過大な状況に挑んでしまって、健康を害することになってしまった…なんてことになる可能性も、なくはありません。

ゆえに、生きていくための実践的な知恵として「乙」「丙」の選択肢も、あることは認識していて損はありません

「丁」はさすがに最後の最後、という手段ですが、たった一度の人生、なんだかんだいって、命あってのものだねですから、状況によっては、最善手となり得ます。

ただ、プロフェッショナルは必ず、「乙」か「丙」の道を選びます。選べるように、常に注意を配るようにします。

脱出アプローチを見極めるための、判断基準

以上の甲乙丙丁の、どの道を選ぶのかは、プロジェクトワーカーとしてのキャリアを作っていくうえで、とても大切です。

判断基準は、意外と簡単です。

状況選ぶべき道
●取り組みのテーマや題材に、興味がある
●関係者に、尊敬できる人や助けたい人がいる
●頑張れば、うまくいく可能性があると思える
甲:戦う
(立ち上がり、リーダーシップを発揮する)
●自分の守備範囲を守るだけなら、対処できる
●とりあえず、他にやりたいこともない
●苦労している関係者を、見捨てるのも忍びない
乙:割り切る
(できる範囲で付き合う)
●立て直しをしていくビジョンが見えない
●テーマや題材に、思い入れを持てない
●他にやりたいことがある
丙:退却
(適切な措置を講じて離脱する)
●とにかく理不尽なことばかりで、困っている
●自身の身体生命の危険を覚えている
●どうすれば、場に貢献できるかわからない
丁:逃げる
(とにかく離脱することを最優先する)

地獄化したプロジェクト状況は、もしかしたら、その先にある極楽への通過点かもしれません。

しかし、リスクを取りすぎるのも考えものです。上記の判断基準を、冷静かつ最善の判断の、参考としていただけますと幸いです。

そして、最後に、ひとつだけ。

もし、「戦う」と決心したならば、立て直しのためにやるべきことは、ただ一つです。

その構想を表現するために、「プ譜」は非常に有効です。
以下の記事も、ご参考いただけますと幸いです。

プ譜のテンプレートと、書き方のワンポイントアドバイス!


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    この記事の著者

    後藤洋平,ポートレート

    プロジェクト進行支援家
    後藤洋平

    1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。

    ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
    著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。