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この記事について
この記事は、「プロジェクト進行支援家」こと後藤が独立後、50社・3000名以上(2024年末現在)の方々へ、インハウスやビジネススクール等で「プロジェクトマネジメント」にまつわる様々な研修や講座、講演等を行ってきたなかで、プロジェクト進行スキルの開発というものは、本当に難しいものだと痛感し「プロジェクト教育のアップデート」が必要だと痛感したことについて、書いたものです。
もくじ
1 この文章が着目する問題:プロジェクトワークは、いつも困難だ。どうしてこうなんだ!
2 プロジェクト組織の「なりがち」な状況 :トップのキャパシティ=組織のキャパシティ
3 一般的なPMスキル開発の手法 そのメリット/デメリット
4 自社のプロジェクト進行スキルを、本当にどうにかしたかったら、◯◯から始めよう
着目する問題:
プロジェクトワークは、いつも困難だ。どうしてこうなんだ!
IT開発やDXプロジェクト、あるいは社内新規事業の立ち上げやクライアント向けのクリエイティブ制作プロジェクトなどで、なにが一番むずかしいものでしょうか。
「プロジェクト進行支援家」こと後藤が独立後、大手企業やSIer、制作会社、スタートアップ企業を中心に50社以上・受講者数にして3000名以上の方々へプロジェクトマネジメントにまつわる様々な研修を提供し、あるいは実務支援に取り組んできたなかで、たどり着いたのは、たった一言の結論です。
「決めていたはずのことが、くつがえる」
単純すぎる結論で、拍子抜けされてしまうかもしれませんが・・・
いま、事業会社や制作会社、SIer、コンサルティング企業、ITサービス提供ベンダなど、実に多くの人や企業が、プロジェクト型の業務に取り組んでいます。その業務内容は、とうてい一言ではあらわせないぐらいに多様ですが、それらの個性豊かな各現場で、直面している困難は、実に共通しているのです。
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もちろん、その業務にあたる方の能力が高ければ、より少ない手戻りで、より少ないコストで、より大きな価値や利益を生み出すことができるでしょう。どんな企業にも必ず、強いリーダーシップを有するエース人材や組織のトップの方がおられることと思います。
しかし、残念ながら、どんなに優れた人間も、神様ではない以上は、あらゆる現場のあらゆる問題を解決することはできません。
難しい案件を同時進行しているなかで、どこかにほころびが生まれてしまい、厄介な問題に発展するのも、よくある話です。
そのなかで、経験の少ないジュニアな人材や、本当はプロジェクトワークに適性のない人材も、メンバーとして任命せざるを得ないことも、おうおうにしてあります。
ベストな布陣を敷くことができない場合に、プロジェクトの現場でしばしば起きるのが、以下のような問題です。
プロジェクト型組織の責任者が、しばしば直面する悩み
●メンバーの立案する施策や、問題対処の思考の質が低い、場当たり的なものになりがち
●問題の本質を突いた解決の過程を描くことができていないため、解決スピードが遅く、精度が低い
●最終的に、確認や修正を責任者が担わざるを得ないことも多く、負担が集中する
プロジェクト組織の「なりがち」な状況:
トップのキャパシティ=組織のキャパシティ
以下の図は、そんなプロジェクト組織の「なりがち」な状況を視覚化したものです。
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どんなビジネスプロジェクトも、現場の仕事は現場に任せるのが通常です。一定以上の人員が所属する組織では、必ず中核リーダー的な役割が設定され、各パートやモジュールを担う数名~最大10名程度の小単位の指揮を任されます。そんな最前線のみんなが、あんじょうよしなにひとつひとつの案件を完結させることができたら理想です。
多くの案件は、実際に、そうなっているかもしれません。
しかし、全部が全部、そうなるとも限りません。
そして、期待通りにならなかった取り組みは、必ず、複雑化します。そして、複雑化した問題を、最終的に解決するために、エース人材や組織のトップの力が、いつかどこかで必要とされるものです。業務の最終的な責任は、レポートライン上の責任者(ベンチャー、スタートアップ企業であれば代表者やCEO、中堅企業であれば事業責任者)が負わなければなりません。
そのことの、なにが問題なのか。
高い問題解決能力やプロジェクト進行スキルを有する人間は、組織の中では希少な存在であり、ゆえに、彼ら彼女らのもっている「時間」が、その組織の生産能力における、ボトルネックとなってしまう、ということです。
一般的なPMスキル開発の手法:そのメリット/デメリット
さて、そのような事情から、どんな企業でも、生産能力の拡大のために、各種の研修やトレーニングを取り入れているものです。「プレゼンテーション」や「データ分析」「Officeソフトの操作」などのベーシックなものから、「プログラミング」等の専門技能に関わるものなど、その対象は多岐に渡ります。
そのなかに「プロジェクトマネジメント」という確固たる分野があり、社員の能力開発手法としては、おおむね以下のような手段が活用されています。
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こうして整理してみると、自社に合うものを適切に選べば、簡単にPM教育が推進できそうに見えます。
しかし、世の中そう甘くはありません。
プロジェクト進行スキルは、間違いなく、数ある技能のなかで、もっとも教えるのが難しいもののひとつです。
育成手段ごとのデメリットを簡単に整理しますと、下の表の通りとなります。
集合研修 | ●定型化されたマニュアルは教え込めるが例外対処方法は教えにくい ●一般論を具体的な実務に応用するのが難しい |
書籍や動画による自学自習 | ●学びへのモチベーションを維持するのが難しい ●案件や担当者によって必要な教育内容が異なる ●本当に必要なものを見つけるのは意外と難しい |
実務の中でのOJT | ●個別の現実には対応できるが体系化が難しい ●当人同士の相性や状況により効果がマチマチ |
これらはこれらで、これらだけでも難しい問題なのですが、最大の問題は、「プロジェクト進行スキルについて、自分自身を客観的に評価することは、そもそも根本的に難しいため、自発的な(前向きな自己否定を伴う)能力開発の動機が生まれにくい」ということです。
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自社のプロジェクト進行スキルを、本当にどうにかしたかったら、◯◯から始めよう
プロジェクト進行スキル開発を、ほんとうにどうにかしたかったら、やみくもに研修を打ったり、やみくもにOJTをさせたり、やみくもに本を読ませたり、やみくもに動画を見せたりしては、いけません。
組織的なPMスキル開発においては、やみくもな投資は、単なる時間のムダ、お金のムダに、なってしまいかねません。
では、どこから始めるとよいのでしょうか。
その答は、各パートを担う数名~最大10名程度の小単位の指揮を任される、中堅リーダー達です。
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ポイントは、大きく2点あります。
①まず第一に、実質的に、トップの意向を組みながら実務を引っ張っている中核リーダーの「思考の質」を強化することです。
プロジェクト進行における思考の質とはなにか。「俯瞰的な状況判断による、問題の急所の理解」そして「次なるアクションをスピーディかつ的確に構想する反射神経」です。これを身につけるためには、いわゆるプロジェクトマネージャー資格を取得するための理論や知識よりもむしろ、身体感覚的な大局観を身につけることが有効です。
②そして、次にポイントとなるのが、トップと中核リーダーの間にある「意思疎通の質」を改善することです。
プロジェクトワークの世界は、想像する以上に情報量が多く、また文脈依存の激しい世界です。多くの人が2つも3つも案件を掛け持ちし、多忙ななかで時間を縫いながら業務にあたっているなか、隣の席に座る同僚が、実際のところ何をやっているのか、全然知らないよ、ということも多いものです。組織のトップと中核リーダー達が、互いに多忙な立場で、わずかなコミュニケーション機会をうまく活かせず、残念なすれ違いを演じてしまっている組織が、実に、多いのです。
中核リーダーの「思考の質」と、トップと中核リーダーの間にある「意思疎通の質」。
このふたつのポイントを抑えない育成施策は、投資対効果の悪いものになってしまいますので、ご注意ください。
ちなみに、ゴトーラボでは、そうした問題を解決する手法として「プ譜(プロジェクト譜)」を用いたプロジェクト状況の表現技法を提唱し、多くの企業に提供しています。「プロジェクトの大局観を掴むスキルを体得する」「トップと中核リーダーの間にある「意思疎通の質」を改善する」ことにご興味のある方は、ぜひこちらもご覧いただけますと幸いです。
参考:プ譜のテンプレートと、書き方のワンポイントアドバイス!
参考資料と相談会のご案内
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PM/PLスキル開発を徹底的に考える「ディスカッション・ペーパー」を一般公開しています。
よろしければ、ご覧ください。
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この記事の著者
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プロジェクト進行支援家
後藤洋平
1982年生まれ、東京大学工学部システム創成学科卒。
ものづくり、新規事業開発、組織開発、デジタル開発等、横断的な経験をもとに、何を・どこまで・どうやって実現するかが定めづらい、未知なる取り組みの進行手法を考える「プロジェクト工学」の構築に取り組んでいます。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」「”プロジェクト会議” 成功の技法(翔泳社)」等。